2017年11月5日


11月5日

午前七時、起床。

今から一時間後には自宅を出て、仕事場へと向かわねばならない。

まだ相当の眠気が残っているが、ひとまずデスクチェアに腰掛け、ノートパソコンを開いた。

海外サッカーの動画ニュースを観るのが、この頃の朝の習慣である。さしてサッカーに興味があるわけではないが、ハイライト映像なので、九十分の試合の中の派手なシーンだけを五分程度でまとめて観ることができて、そこそこ楽しめる。これくらいが丁度いい。ゆっくりしていると仕事に遅刻してしまうし、ゴールが決まる華やかな映像は、朝の憂鬱な気分を一時紛らせてくれる。

動画を観ながら、昨晩コンビニで買っておいた菓子パンを口に入れる。手作りの温かい朝食などは、久しくいただいていない。多分、十年くらいは食べていない。

高校卒業以来、ずっと一人暮らしを続け、気づけば三十四歳になっていた。晴れやかな朝、ワクワクする朝――そんな朝、これまであっただろうか。

前屈みになって黒の靴下を履きながら、「仕事、行きたくねぇなぁ……」とつぶやく。今朝の快晴の青空のごとく、もっと人生とは明るいものだと思っていた。カーテンの隙間からこぼれる朝陽のごとく、社会人はもっと勇ましいものだと思っていた。

憂鬱が襲いかかる。それはいつも急だ。何の前触れもなく、憂鬱は突然おとずれて、耳元でそっと囁く。「不安ではないか?」と、たったその一言だけを私の心に落として、不安を掻き立てる。

こんなにも外は明るく、まさにこれから今日一日が始まろうとしているのに、洪水のように一気に不安が押し寄せてくる。

不安――不安は重い、不安は暗い。体は重くなって、視界は暗くなって、朝のほんの一瞬、不安が私全体を覆い包む。一体その不安の根源が何であるのか、私にもよくわからない。一つ言えることは、「私の人生はこの先うまくいかないんじゃないか?」と、私自身がそう思っていること。私はそのことについて、漠とした怯えを抱いている。

「そんなのはお前だけじゃない。みんなそうだ」――しかし、その『みんな』の中に私が入っていないんじゃないか? だから怯えているんじゃないか?

靴下を履き終え、壁掛け時計をみると、時刻は七時五十分となっていた。急いで髭を剃り、スーツに着替えなければならない。

こんな朝では今日一日が思いやられる。急がないと遅刻する。