2018年1月23日


1月23日

窓の外を見れば、一面景色が白に染まっていた。

東京二十三区に大雪警報が出たのは四年ぶりのことらしい。私が住む千葉県もただでは済まず、昼を過ぎたあたりから雪が降り始めた。間もなく地に雪が積もり、その勢いは強風を伴い、弱まることなく夜まで降り続けた。

「子供の頃は、雪が降ればテンションが上がったものだけど。そういうのは今はもう無いな」

見慣れてしまったがゆえに、感動することはない。しかし、寒いのは変わらない。ファンヒーターの熱を「弱」から「強」に切り替え、適当に室内が温まったところで、毛布に包まって寝た。

――翌朝、雪は止んでいたが、地面にはまだ一部雪が積もっており、依然として身にしみる寒さが続いていた。

今日一日、何をやるか。仕事は休みなのだが、特に予定はない。

「夕方頃になったら、銭湯にでも行ってみるか」

半年ほど前から、月一度のペースで自宅近くの銭湯に通っている。〝銭湯〟といっても、個人経営のこじんまりとしたところではなく、大型の、所謂〝スーパー銭湯〟である。

ちょくちょく銭湯に行くようになったのは、日々の仕事の疲れをとるため、気分をリフレッシュさせるため……といった、ごくごく一般的な動機からである。

こんな寒い日は銭湯がうってつけだと思い、十七時を過ぎた頃、タオルと洗顔剤を入れたトートバッグを携え、いつも通り徒歩で銭湯へと向かった。

受付カウンターの前には、珍しく数人の客が並んでおり、繁盛していることが窺い知れた。雪が降ったこともあって、皆温まりたいのだろう。

脱衣所のロッカーに、脱いだ服を仕舞い込み、すぐに浴場へと向かった。ざっと浴場全体を見渡すと、思っていたより入浴客は少なく、ゆっくり過ごせそうで安心した。

まずは鏡の前で身体を洗う。備え付けのボディソープとシャンプーをふんだんに利用する。但し、洗顔剤は持参したものを使う。

一通り身体を洗い終え、ようやく風呂に浸かる。肩まで浸かると、全身が温まっていくのが分かった。この時、この場に、ストレスというものは一切無い。まさに心身ともにリラックスした状態。――だからなのか、妙に自分の過去を振り返ってみたり、今後の将来について漠然と考えてしまう。

「現在の会社に勤めて、三年が経つ。この会社でこのままずっと働き続けるのだろうか。どこかのタイミングで辞めるのだろうか。いや、辞めてどうするというのか? 辞めたところで何か仕事があるわけでもない。また、この年齢での転職活動は、相当大変であろう。が、しかし……これでいいのか、このままでいいのか」

湯船に浸かりながら、ぼんやりとそんなことを考える。

浴場の天井は高く、見上げると、入浴客の声が複数反響していた。特に子供の甲高い声は、際立って鳴り響いていた。

「『この先どうする?』って、一体何だそれは、その悩みは。そんなことは、生活に余裕のある、甘ったれた痴れ言に過ぎない」

サウナ室に移動し、頭の中を一旦クリアにする。薄暗い中、熱さに耐える。汗が落ちる。忘れる。思い出さなくなるまで、忘れる。

「悩み事が無いのが悩み事」。いつか誰かがそう云っていた。それと大差ない、私の悩みは、私の現在の生き方は。

サウナ室から出た後、再び風呂に浸かった。が、そこまで長湯はせず、五分程度で出ると、最後にまたシャワーで軽く身体を洗った。

タオルを「ギュッ」と絞り、それで全身を拭いてから脱衣所へと戻る。ロッカーを開け、持参したスーパーのビニル袋を取り出す。そこに使用したタオルを入れて持ち帰る。バスタオルで身体を拭き、服を着た後、ドライヤーで適当に髪を乾かす。

受付カウンターで会計を済ませ、外に出ると、既に陽は落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。

家路へと向かう。途中、火照った身体を、冬の風が心地よく冷ます。澄み切った夜空に、星が点々と瞬いている。

「今日はあと、寝るだけだ」

歩道の外灯に照らされ、出来た自身の黒い影は、私が歩くたび、別の意志をもって動いているように見えたのは気のせいか。